インコタームズとは?国際物流の基礎から実務活用まで徹底解説
「国際物流の仕事を任されたけど、インコタームズって何?」「FOBとCIFの違いがよくわからない」「取引先から提示された条件が自社にとって有利なのか判断できない」。こんな悩みを抱えていませんか?国際貿易において、インコタームズの理解は避けて通れません。しかし、アルファベット3文字の羅列に戸惑い、11種類もある条件の使い分けに頭を悩ませる方も多いでしょう。本記事では、インコタームズの基礎から実務での活用方法までわかりやすく解説します。
インコタームズの重要性と基本概念
国際物流の世界では、異なる国の企業が円滑に取引を行うための共通言語が必要です。その役割を果たすのが、インコタームズという国際的な取引ルールなのです(※1)。
インコタームズ(Incoterms)の定義と役割
インコタームズ(International Commercial Terms)は、国際商業会議所(ICC)が1936年に制定した、世界共通の貿易条件を定めた国際規則です。正式には「国内および国際取引条件の使用に関するICC規則」と呼ばれ、現在は2020年版が最新となっています。
この規則は、売主と買主の間で「誰が、どこまで、どんな費用とリスクを負担するか」を明確に定義したものです。たとえば、商品の輸送費は誰が払うのか、輸送中に事故が起きたら誰の責任になるのか、通関手続きは誰が行うのかといった重要事項を、アルファベット3文字で簡潔に表現します。
重要なのは、インコタームズ自体に法的拘束力はないという点です。しかし、世界中の企業が共通認識として活用しており、契約書に「本契約はIncoterms®2020に準拠する」と明記することで、実質的な拘束力を持たせることができます。
なぜインコタームズが必要なのか?
国際取引では、国によって商慣習や法制度が異なるため、認識の違いからトラブルが発生しやすくなります。インコタームズが必要とされる理由は、主に次の3つのポイントが挙げられます。
第一に、商慣習の違いによるトラブル防止です。たとえば、日本では「船積み」といえば船に積み込むまでを指すことが多いですが、他国では港に到着した時点を指す場合もあります。このような認識の違いを統一することで、無用な紛争を避けることができるのです。
第二に、責任範囲の明確化による円滑な取引の実現です。輸出入には多くの関係者が関わりますが、各段階での責任の所在を明確にすることで、問題が発生した際の対応がスムーズになります。
第三に、国際物流コストの透明化です。見積もり段階で、どこまでの費用が含まれているかが明確になるため、予期せぬ追加費用の発生を防げます。これにより、正確な原価計算と適正な価格設定が可能となり、健全な国際取引の基盤となるのです。
インコタームズで定義される3つの要素
インコタームズは、国際取引における重要な3つの要素を明確に定義しています。まず、費用負担の範囲です(※2)。これには輸送費、保険料、通関費用、関税などが含まれます。 たとえばFOB条件では、売主は商品を船に積み込むまでの費用を負担し、それ以降の海上運賃や保険料は買主の負担となります。一方、DDP条件では、売主が輸入国での関税支払いまで含めたすべての費用を負担します。
次に、危険負担の移転時期です。これは、商品の損失や損傷のリスクが売主から買主に移る瞬間を指します。多くの場合、費用負担の切り替わりと同時に危険負担も移転しますが、C系の条件(CFR、CIF、CPT、CIP)では、費用負担と危険負担の移転時期が異なるため、特に注意が必要です。
最後に、売主・買主の役割と義務です。輸出入許可の取得、必要書類の準備、輸送手段の手配など、誰が何をすべきかが詳細に規定されています。これにより、取引の各段階で必要な作業が明確になり、準備不足によるトラブルを防ぐことができるのです。
インコタームズ2020の11条件

インコタームズ2020には11の条件があり、それぞれ異なる責任範囲を定めています(※3)。これらは大きく2つのカテゴリーに分類され、適用できる輸送手段が異なります。
全輸送手段対応の7条件(複合輸送にも対応)
EXW(Ex Works/工場渡し)は、売主の負担が最も少ない条件です。売主は自社の工場や倉庫で商品を買主に引き渡すだけで、その後の輸送手配、輸出通関、費用負担はすべて買主が行います。
FCA(Free Carrier/運送人渡し)は、コンテナ輸送において最も推奨される条件です。売主が指定された場所で運送人に商品を引き渡した時点で、危険負担が買主に移転します。輸出通関は売主が行うため、EXWよりも売主の責任範囲が広くなりますが、その分、取引価格も高く設定できます。
CPT(Carriage Paid To/輸送費込み)とCIP(Carriage and Insurance Paid To/輸送費保険料込み)は、売主が指定仕向地までの輸送費を負担する条件です。ただし、危険負担は運送人に引き渡した時点で買主に移転するため、費用と危険の移転時期が異なる点に注意が必要です。CIPはCPTに保険が追加された条件で、2020年版では保険の補償範囲が拡大されました。
DAP(Delivered at Place/仕向地持込渡し)、DPU(Delivered at Place Unloaded/荷卸込持込渡し)、DDP(Delivered Duty Paid/関税込持込渡し)は、売主の負担が大きいD系条件です。DAPは指定地での引渡し準備完了まで、DPUは荷卸しまで、DDPは輸入通関・関税支払いまでを売主が負担します。
海上輸送専用の4条件(在来船向け)
続いて、海上輸送および内陸水路輸送のみに使用できる4つの条件を説明します。
FAS(Free Alongside Ship/船側渡し)
指定船積港で本船の船側に商品を置いた時点で売主の義務が完了します。木材やバラ積み貨物など、コンテナに入らない商品の取引でよく使用されます。輸出通関は売主が行いますが、船への積込み作業は買主の責任となります。
FOB(Free on Board/本船渡し)
最も歴史があり、現在でも広く使われている条件です。商品が本船の船上に置かれた時点で、費用と危険の負担が売主から買主に移転します。
CFR(Cost and Freight/運賃込み)とCIF(Cost, Insurance and Freight/運賃保険料込み)
売主が指定仕向港までの海上運賃を負担する条件です。しかし、危険負担は船積み時点で買主に移転するため、輸送中の事故リスクは買主が負います。CIFでは売主が保険を手配しますが、最小限の補償範囲であることに注意が必要です。
インコタームズの選び方

理論を理解しても、実際の取引でどの条件を選ぶべきか判断するのは簡単ではありません。ここでは、業界や商品の特性に応じた選択方法と、交渉時の実践的なポイントを解説します。
交渉時の実践的チェックポイント
インコタームズの選択は、単なる費用分担の問題ではありません。自社の能力と相手の状況を総合的に判断する必要があります。
次に、相手国の通関事情や規制を確認します。輸入規制が厳しい国では、現地の事情に詳しい買主が輸入通関を行うDAPが適しています。逆に、輸出規制が複雑な商品では、売主が確実に輸出許可を取得できるFCA以降の条件を選ぶべきでしょう。
為替リスクと保険戦略も重要な検討事項です。運賃の支払い通貨によっては、為替変動が収益に大きく影響します。また、貨物保険の条件も、インコタームズと連動させて最適化する必要があります。CIFやCIPでは売主が保険を手配しますが、補償範囲が十分かどうか、買主側でも確認が必要です。
インコタームズ2020と2010の違い
2020年1月に10年ぶりの改訂が行われたインコタームズ。既に5年が経過していますが、まだ2010年版を使用している企業も少なくありません。ここでは主要な変更点と、移行時の注意事項を解説します。
主要な7つの変更点
最も大きな変更は、DAT(Delivered at Terminal/ターミナル持込渡し)がDPU(Delivered at Place Unloaded/荷卸込持込渡し)に変更されたことです。DATは引渡し場所が「ターミナル」に限定されていましたが、DPUではあらゆる場所での荷卸しが可能になりました。
また、FCAには重要なオプションが追加されました。買主の要請により、売主が船積み後の船荷証券(B/L)を取得できるようになったのです。
CIPの保険条件も大きく変更されています。2010年版では最小限の補償(協会貨物約款C)で十分でしたが、2020年版では、より広範な補償(協会貨物約款A)が要求されるようになりました。これにより、買主の保険リスクが軽減されます。
その他の変更点として、費用分担の明確化、売主・買主による自己輸送手段の使用規定、セキュリティ関連の義務の追加、利用者向け解説の充実などがあります(※4)。これらの変更は、現代の貿易実務により適合した内容となっています。
国際物流のプロを目指すための体系的な学習の重要性

インコタームズの理解は国際物流の入り口に過ぎません。真のプロフェッショナルになるためには、より深い知識と実践力が必要です。
インコタームズ習得による広がる可能性
第一に、インコタームズを正確に理解していれば、取引条件の有利不利を瞬時に判断し、自社に最適な条件を提案できます。また、相手の提案の問題点を的確に指摘し、建設的な代替案を提示することができます。
第二に、リスク管理能力が格段に強化されます。各インコタームズのリスクプロファイルを理解することで、潜在的な問題を事前に予測し、適切な対策を講じられます。保険設計、契約条項の作成、緊急時対応計画など、包括的なリスクマネジメント体制の構築が可能になるのです。
第三に、キャリアアップへの確実な第一歩となります。国際物流の知識は、グローバル化が進む現代において、あらゆる業界で求められるスキルです。貿易実務検定の取得、通関士資格への挑戦、さらには国際物流コンサルタントとしての独立など、様々なキャリアパスが開かれます。
『ロジスタ』で学ぶメリット
三菱商事ロジスティクスが提供する『ロジスタ』は、国際物流を体系的に学べるeラーニングサービスです。インコタームズはもちろん、実務にすぐに活用できるポイントやトラブル対応などを網羅的に習得できます。
大きな特徴は、現役の実務者が講師を務めることです。日々の業務で培われた生きた知識、実際のトラブル事例など、机上の理論では得られない実践的な内容を学べます。まるで隣で先輩社員が教えてくれるような、親しみやすい解説も魅力です。
さらに、いつでもどこでも学べるeラーニング形式であるため、忙しいビジネスパーソンでも自分のペースで学習を進められます。通勤時間や昼休みを活用した効率的な学習が可能で、必要な部分を何度でも復習できます。企業研修としても活用でき、社員全体のスキルアップに貢献します。
インコタームズを味方につけて国際物流のプロへ

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インコタームズは、国際取引における費用負担と危険負担を明確にする世界共通のルールです。2020年版では11の条件が定められており、それぞれ異なる責任範囲を持っています。
実務では、商品特性、自社の能力、相手国の事情などを総合的に判断し、適切な条件を選ぶことが成功のポイントとなります。また、インコタームズは所有権や支払条件を定めていないため、これらは別途取り決める必要があることも忘れてはいけません。
最新版への理解を深めることでリスクを最小限に抑えた取引が可能になるでしょう。インコタームズは単なるルールではなく、国際ビジネスを成功に導くための強力なツールなのです。
<参考記事>
※1、※2… インコタームズ®・ルールの歴史 | ICC(International Chamber of Commerce)
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